矢吹知之氏コラム〈1/3〉

- 矢吹 知之(やぶきともゆき)氏
高知県立大学社会福祉学部 教授
アルツハイマーカフェの創始者べレ・ミーセン氏に師事。認知症の人のピアサポートの場「おれんじドア実行委員」を務める。専門は社会学、社会福祉学、認知症介護
(特に介護家族支援)。認知症とともに生きる社会をつくり育むための研究をしている。
認知症とともに生きるためには、認知症を治す、予防することに注視するだけではなく、社会が変わることを伝え、当事者から学び当事者とともに考える実践に基づく研究を行っている。
認知症の人と家族どちらにも偏らない関わりや支援とは何かを考え続けている。
1.潜在化する高齢者虐待
高齢者虐待の件数は増加傾向にあります。高齢者虐待防止法が施行されて20年経ちますが、「相談通報件数」と「判断件数」には大きな開きがあります。
相談しても虐待と認定される割合は3件に1件程度しか虐待と判断されていないのです。
これは虐待と思われるケースを発見しても、判断するということの難しさを物語っています。そして虐待か否かの明確な線引きの難しさの表れでもあります。
また、虐待の被害者の8割以上に認知症の症状が確認されています。虐待を受けた高齢者本人が声に出して訴えることの難しさから判断が難しく、対応も遅れてしまっていることが考えられます。