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いま介護職に求められる「受援力」。必要な助けを求め、支援の輪を広げるスキル

いま介護職に求められる「受援力」。必要な助けを求め、支援の輪を広げるスキル

いま介護職に求められる「受援力」。必要な助けを求め、支援の輪を広げるスキル

《 フリーアナウンサー・町亞聖さん 》

「受援力」。それは困った時に誰かに助けを求めることができる力。普段は人を支える立場にある介護職にとっても、これからより重要なスキルになるのかもしれない。【Joint編集部】

フリーアナウンサーの町亞聖さんの「受援力(法研)」が昨年10月に刊行された。

今から30年以上前、介護保険制度すらない時代から脳障害で車いす生活を送っていたお母さんを支え、“元祖ヤングケアラー”として知られる町さん。やがてがんの看取りに正面から向き合った経験も礎に、この分野で情報発信・普及啓発など幅広く活躍している。

介護・福祉の世界に長く関わってきた当事者が今、この「受援力」という言葉に込めた想いは何か。利用者・家族だけでなく介護職も救うキーワードかもしれないと思い、単独のインタビューを申し込んだ。

取材を通じて学べたのは、責任感を持って頑張ろうという志が時に自分を追い込んでしまうケースもあるということ。町さんは介護職にこう語りかけた。

「全てを自分1人で抱え込まないで。助けが必要な時に『助けて』って言うことが支援の輪を広げる」

◆「全ての人に必要な力」

《 フリーアナウンサー・町亞聖さん 》

  −− ケアラーとしてのご自身の経験が、この「受援力」というタイトルにつながっているのでしょうか?

そうですね。私自身が全く持っていない力だったんです。若くして母を支える立場になりましたが、長い間「助けて」と言えずにいました。

当時は介護サービスがありませんので、家族が介護を担うのが当たり前でした。介護を語ることすら難しい状況の中で、誰かに助けを求めることは簡単ではありませんでした。「長女の私がやるしかない」と1人で全てを抱え込んでしまい、かなり追い込まれていました。


  −− 今回のご著書に込めた思いは?

ケアラーだけでなく、例えば子育て中の親や経済的に困窮している方なども、本当は支援が必要なのに「助けて」と言えず、ぎりぎりの状態で歯を食いしばって1人で頑張ってしまっている人が少なくありません。

そうした皆さんの姿を見て、切羽詰まる前に「助けて」と言うことの大切さを強く感じています。「受援力」は特定の人だけでなく、全ての人にとって必要な力ではないでしょうか。

そう簡単でないことは私自身も痛感しています。日本人の国民性や美徳も関係する話かと思います。私も弟妹のために「私が我慢すれば良い」と思っていましたし、頑張るしかありませんでした。

時には歯を食いしばって頑張ることだって必要でしょう。当然、常にワガママになれ、無責任に人任せにしろ、と言っているわけでもありません。

ただ、本当に困って追い込まれてしまう前に誰かに「助けて」と言えること、より具体的に「これを助けてほしい」と言語化できることは大切です。今回、それを広く伝えたいと思って執筆しました。言語化することは、必要な支援につながるためにも大切なことです。

◆「支援と受援のバランスが大事」

《 フリーアナウンサー・町亞聖さん 》

  −− 介護職にとっても重要な視点ではないでしょうか?

もちろんです。人手不足は今に始まった問題ではなく、介護現場では長年にわたり厳しい状況が続いてきています。そこを支えている皆さんですから、もっと「助けて」と声を上げて頂きたい。

介護はチームであたるもので、多職種と連携しながら取り組むことも欠かせません。1人で完結できる仕事ではなく、お互いに助け合う力も求められます。

でも、介護職の皆さんって「自分がやらなければ」という責任感の強い人が多いですよね。在宅でも施設でも、疲弊しながら頑張り続けている人が少なくありません。

これは本当に素晴らしいことなのですが…。そうした方々が疲弊していく姿を見ると、「もっと助けを求めていいのでは」と感じます。介護職には、支援する力と支援を受ける力の両方が必要なのではないでしょうか。


  −− 献身的に頑張る方が疲弊してしまうと、誰のためにもなりません。

ですから、自分のことももっと大切にして頂きたいです。介護は支援者が一方的に頑張るだけでは成り立ちません。介護は「写し鏡」のようなもので、支援を受ける側とする側の関係がうまくかみ合うことで、双方が笑顔になれるのではないでしょうか。

介護保険制度が始まった当初から、介護職による過剰な支援もたびたび問題になってきました。本人ができることまで奪ってしまう実態が一部にあるんです。

気持ちは分かるのですが、介護職が自分たちを追い込む結果になれば本末転倒です。自立支援の理念とも相容れません。支援と受援のバランスが崩れていると、より良いケアが提供できない悪循環が生じがちです。

たとえ時間がかかっても、本人ができることはやってもらうことが大切です。母には右半身麻痺の障害がありましたが、心掛けていたのは、時間がかかってもいいので、左手でできる家事は何でもやってもらうということ。母のできることが増えると、それだけ家族の負担が減ることにつながりました。

介護現場も同じ考え方で良いと思います。利用者<に>お茶を出すのではなく、利用者<が>お茶を淹れられるように環境調整をすることが介護職の仕事です。利用者のできることを増やしていくことは、介護職の「受援力」に含まれるのではないでしょうか。

◆「みんなで声をあげていこう」

《 フリーアナウンサー・町亞聖さん 》

  −− 介護職へのメッセージをお願いします。

介護職の対価をもっと手厚くすべき、というのが私の意見です。今の給与水準は低すぎで、十分に評価されていません。

この状況をなんとか変えないといけません。最後まで暮らしや人生に寄り添う介護は単なるケアワークではなく、専門性の高いクリエイティブな仕事であり、家族の介護離職を防ぐためにも不可欠であるということを、広く理解してもらいたいんです。

そのためにも、介護現場の声を1つにまとめて届ける体制が必要ではないでしょうか。医療や看護の現場の声は診療報酬や制度に反映されています。しかし、介護現場の声は十分に届いていないのが実情です。

残念なことですが、ただ現場で頑張るだけでは適切に評価されません。介護報酬の改定に翻弄されるのではなく、現場から声を上げることで日本の介護をより良いものにしていって欲しいと思います。問題意識はみんな同じだと思います。具体的に助けて欲しいことを言語化して伝える「受援力」をもっと発揮していきましょう。

介護ニュースJoint提供
いま介護職に求められる「受援力」。必要な助けを求め、支援の輪を広げるスキル(掲載日:2025年2月17日)